Vibe Coding vs No-Code/Low-Code:AIエージェント時代のツール選択戦略

三橋 啓多
三橋 啓多
Co-founder, COO

「プログラミングなしでアプリを作りたい」——そう考えたとき、多くの人がNo-Code/Low-Codeツールに目を向けます。しかし今、別の選択肢が急速に存在感を増しています。AIに自然言語で指示を出し、コードを生成させる「Vibe Coding」です。

No-Codeで十分なのか、それともVibe Codingを学ぶべきか。あるいは、すでにNo-Codeを使っているが「ここから先ができない」という壁に直面していないでしょうか。

どちらも「コーディングの負担を軽減する」という点では共通していますが、そのアプローチや適用範囲、求められるスキル、そしてリスクは大きく異なります。本記事では、学習コスト、開発の柔軟性、ガバナンス、実際のユースケースまで多角的に比較し、どのような場面でどちらを選ぶべきかを明らかにしていきます。

Webサイト制作インターナルツール制作ダッシュボード制作
No-CodeWebflowRetoolTableau
Vibe CodingLovableReplitSquadbase

比較表:No-Code vs Vibe Coding

比較軸No-Code/Low-CodeVibe Coding
学習コストツール固有のUIや操作体系の習得が必要。ツールごとに学び直しが発生する場合も自然言語で指示するため、プログラミング経験がなくても開始可能。ただしプロンプトの書き方に慣れる時間は必要
成果までの速度テンプレートやコンポーネントが豊富で、定型的なアプリは数時間〜数日で構築可能要件を言語化できれば即座にコード生成。反復的な修正を含めても短時間で成果物を得やすい
スキルの可搬性特定プラットフォームへの依存度が高く、ベンダーロックインのリスクがあるPython・SQL・JavaScriptなど標準的なコードが出力されるため、他環境への移植や再利用が容易
修正・改善の容易さGUI上で直感的に変更可能だが、細かいカスタマイズには制約がある場合も生成されたコードを直接編集でき、AIに追加指示を出して段階的に改善することも可能
ガバナンス・統制エンタープライズ向けツールでは権限管理・監査ログなどが整備されているコードが可視化されるため監査性は高いが、統制の仕組みは利用するツールや組織の運用に依存

学習コスト

No-Code/Low-Codeツールは、ドラッグ&ドロップなど直感的な操作でアプリケーションを構築できる点が魅力です。しかし、各ツール固有のインターフェースや概念(ワークフロー、データモデルの設定方法など)を習得する必要があり、ツールを乗り換える際には再学習のコストが発生します。

一方、Vibe Codingは「こういうものを作りたい」という自然言語での指示からスタートできるため、プログラミングの文法を知らなくても取り組めます。ただし、AIに的確な指示を出すためのプロンプトエンジニアリングや、生成されたコードの基本的な読み方を理解することで、より効果的に活用できるようになります。

成果までの速度

No-Code/Low-Codeは、あらかじめ用意されたテンプレートやコンポーネントを組み合わせることで、定型的な業務アプリやWebサイトを迅速に構築できます。特に「よくあるパターン」に当てはまるユースケースでは、数時間から数日で実用的な成果物を得られることも珍しくありません。

Vibe Codingでは、要件を言葉で伝えるとAIが即座にコードを生成するため、初期の成果物を得るまでの時間が非常に短いのが特徴です。生成結果に対して「ここを変えたい」とフィードバックを繰り返すことで、短いサイクルで完成度を高めていくアプローチが取れます。

スキルの可搬性

No-Code/Low-Codeツールで培ったスキルは、そのプラットフォーム内では大きな価値を持ちますが、別のツールや環境に移行する際には直接活かしにくい面があります。また、サービス終了や料金改定といったベンダー側の変更により、構築した資産の継続利用に影響が出るリスクも考慮が必要です。

Vibe Codingで生成されるのは、Python・SQL・JavaScript・HTMLといった標準的なプログラミング言語のコードです。このため、生成物を別のプロジェクトや環境に持ち込んだり、従来の開発プロセスに組み込んだりすることが比較的容易です。コードを読む力が身につけば、それ自体が汎用的なスキルとなります。

修正・改善の容易さ

No-Code/Low-Codeツールでは、ビジュアルエディタ上で要素を選択して設定を変更するだけで修正が完了します。専門知識がなくても変更作業が行える反面、ツールが想定していない細かいカスタマイズや例外的な処理を実装したい場合には、制約に直面することがあります。

Vibe Codingでは、生成されたコードそのものを編集できるため、修正の自由度が高いのが特徴です。また、「この部分をこう変えて」とAIに追加の指示を出すことで、コードを直接書き換えなくても改善を進められます。ただし、複雑な変更を行う場合には、コードの構造をある程度理解していると作業がスムーズになります。

ガバナンス・統制

エンタープライズ向けのNo-Code/Low-Codeプラットフォームでは、ユーザー権限の管理、操作ログの記録、承認ワークフローなど、組織での利用を前提としたガバナンス機能が充実しているものが多くあります。IT部門による統制を効かせながら、現場部門がアプリを開発するといった運用が可能です。

Vibe Codingでは、生成されたコードがそのまま成果物となるため、何が実装されているかを明確に確認でき、コードレビューや監査の観点では透明性が高いといえます。一方で、誰がどのようなコードを生成・利用しているかの管理については、組織側でルールを整備したり、適切なツールを選定したりする必要があります。

ユースケース別:どちらが適しているか

No-Code/Low-Codeが向いている場面

定型業務の自動化

日々繰り返されるルーティンワークの自動化は、No-Code/Low-Codeツールが最も威力を発揮する領域です。経費精算の承認フロー、休暇申請の処理、定期レポートの自動生成といった業務は、パターンが明確で例外処理も限定的なため、ビジュアルワークフローで設計しやすい特徴があります。Power AutomateやZapierなどのツールを使えば、数時間で実用的な自動化を実現でき、即座にROIを得られるケースが多いでしょう。

厳格な統制が必要な環境

金融、医療、製造業など、コンプライアンスや監査要件が厳しい業界では、No-Code/Low-Codeプラットフォームの統制機能が重要な意味を持ちます。アクセス権限の細かな設定、変更履歴の自動記録、承認プロセスの強制適用など、エンタープライズ向けプラットフォームには監査対応を意識した機能が組み込まれています。IT部門による一元管理も容易なため、シャドーITのリスクを抑えながら現場の生産性向上を両立できます。

既存システムとの連携が重視される場合

SalesforceやSAP、Microsoft 365といった基幹システムとの連携が必要な場合、各プラットフォームが提供する公式コネクタを活用できることは大きなメリットです。API連携の複雑さを意識せずに、ドラッグ&ドロップでデータ連携を構築できます。特にMicrosoft Power PlatformとMicrosoft 365の組み合わせのように、同一エコシステム内での連携は設定の手間が大幅に軽減されます。

非IT部門による開発

人事、経理、営業といった非IT部門のメンバーが、自らの業務を改善するツールを作りたい場合、No-Code/Low-Codeは現実的な選択肢となります。プログラミング知識がなくても、業務知識を活かしてアプリケーションを構築できるため、IT部門への依頼を待たずに課題を解決できます。現場主導のDXを推進する原動力となり得ます。

Vibe Codingが向いている場面

探索的なデータ分析

明確な答えが見えない状態で仮説を立て、データを探索しながら知見を得ていくような分析作業では、Vibe Codingの柔軟性が活きてきます。「このデータをこんな切り口で見てみたい」「さっきの分析を別の条件で試したい」といった試行錯誤を、AIとの対話を通じて素早く繰り返せます。PythonやRのコードが生成されるため、分析手法の再現性も担保され、後から検証することも可能です。

要件が明確でない・変化しやすい場合

新規事業のプロトタイプやMVP(Minimum Viable Product)開発では、作りながら要件を固めていくアプローチが有効です。Vibe Codingは「まずは動くものを作って試す」というサイクルを高速に回すことに適しています。仕様変更があっても、コードベースであれば柔軟に対応でき、No-Code/Low-Codeツールのように「プラットフォームの制約で実現できない」という壁にぶつかりにくいのが利点です。

スキル資産の構築を重視する場合

Vibe Codingを通じて生成されるコードは、汎用的なプログラミング言語で書かれています。AIと協働しながらコードを書く過程で、標準的な技術スタックに触れることになり、長期的なスキル形成につながります。習得した知識は特定のプラットフォームに縛られず、転職や新しいプロジェクトでも活用できるポータブルな資産となります。エンジニアとしてのキャリア形成を視野に入れている場合、この点は無視できない要素です。

高いカスタマイズ性が必要な場合

独自のアルゴリズム実装、既存にないUIパターンの実現、複雑なビジネスロジックの組み込みなど、「かゆいところに手が届く」カスタマイズが必要な場面では、コードを書けることの自由度が活きます。No-Code/Low-Codeツールでは「できそうでできない」機能に遭遇することがありますが、Vibe Codingであれば原理的には何でも実現可能です。もちろん実装の難易度は別問題ですが、プラットフォームの制約という天井がない点は、複雑な要件に対応する際の安心材料となります。

FAQ: よくある疑問

Q. No-Code/Low-Codeは今後なくなるのでしょうか?

いいえ、No-Code/Low-Codeがなくなることはありません。むしろ、特定の領域では引き続き重要な役割を果たし続けるでしょう。

たとえば、定型的な業務プロセスの自動化、厳格なガバナンスや監査が求められる環境、既存のエンタープライズシステムとの連携といった場面では、No-Code/Low-Codeプラットフォームの安定性と管理のしやすさが大きな強みとなります。企業のIT部門が一元管理しやすい点も、セキュリティやコンプライアンスの観点から評価され続けるでしょう。

一方で、新規サービスの開発や探索的なデータ分析など、柔軟性とスピードが求められる領域では、Vibe Codingのようなアプローチが主流になっていく可能性があります。

結論として、両者は「競合」ではなく「共存」の関係にあります。用途や組織の状況に応じて、最適な手段を選択できることが重要です。

Q. AIが間違ったコードを生成した場合、どうすればよいですか?

Vibe Codingの大きな利点の一つは、生成されたコードが「見える」ことです。No-Codeツールのようにブラックボックス化されていないため、出力されたコードを検証し、問題があれば特定できます。

もしAIが誤ったコードを生成した場合は、対話を通じて修正を指示できます。「この部分の計算ロジックが間違っている」「エラーハンドリングを追加してほしい」といった具体的なフィードバックを伝えることで、AIは修正版を提案してくれます。このやり取りを繰り返すことで、目的に合ったコードに近づけていくことができます。

ただし、最終的な責任は人間が持つという原則を忘れないでください。特にビジネス上重要な処理や、セキュリティに関わる部分については、専門家によるレビューを受けることを強く推奨します。AIは強力なアシスタントですが、その出力を鵜呑みにせず、批判的な目で確認する姿勢が大切です。